深海5,100mで見つかった牙 — メガロドンの歯が語る、絶滅後の時間

水深5,100メートルの闇の中で、ROVのライトが黒い三角形をとらえた。
縁は鋸歯状。表面を覆う黒い鉱物の層は、海水から数百万年かけて積み重なったもの。これは、約350万年前に絶滅した巨大ザメ Otodus (Megaselachus) megalodon — メガロドンの歯だった。
サメの骨格は消えます。歯だけが残ります
サメの体はほぼ軟骨でできているため、死後に海底へ沈んでも骨格は分解されてしまいます。しかしサメは生涯を通じてコンベアベルトのように歯を生え変わらせ、数千本もの歯を落とし続けます。その歯が海底の堆積物に残り、化石となって探検家たちを待っています。
歯の形と大きさで種を同定でき、一部しか残っていない歯でも計算式を使えば元の寸法とサメの体長を推定できます。
メガロドンだけではありません
研究者たちが深海で見つけるのはメガロドンの歯だけではありません。さまざまな先史時代のサメの歯も発見されており、それぞれの形状が種の同定の手がかりになります。現生種と比較することで、絶滅種の習性や生態も推論できます。
「メガロドンの歯はホホジロザメと同じ鋸歯パターンを持っており、同様の捕食方法をとっていたことが示唆されます」
2025年、クック諸島沖の深海平原へ

2025年のNA176遠征で、E/Vノーティラス号はクック諸島の深海を調査しました。3週間にわたり、探検隊は水深5,100メートル(17,000フィート)超の環境を探索しています。大半の調査は深海平原に集中しました。
深海平原は条件が安定しており、サメの歯が保存されやすい環境です。通常、メガロドンの歯は波の浸食で化石層が露出した海岸線付近で多く見つかります。陸からアクセスできる地点でほとんどの発見が起きており、深海はいまだ未踏の領域が多く残っています。
2022年 — 初の現場採取(in situ)
「深海の化石はこれまで、ほとんどが海底をネットで引きずることによって採取されており、正確な採取位置のデータが失われていました」
2022年のNA141遠征では、ROVハーキュリーズが太平洋のパシフィック・リモート・アイランズ海洋保護区(ジョンストン環礁付近)の水深3,090メートルで、偶然メガロドンの歯を採取しました。ロードアイランド大学の海洋地質標本研究室で分析した結果、メガロドンのものと確認されています。

これは深海におけるメガロドン化石の現場観察・採取として初めて正式に記録された事例です。現場採取(in situ)では、堆積の文脈 — どの層に、どの向きで埋まっていたか — が記録に残ります。化石の形成プロセスを解明するうえで、この情報は欠かせません。
2024年には、OETのジェイミー・ザッカリアがニコラス・ストラウベ博士とユルゲン・ポラースペックに連絡を取り、2022年の発見を記録した論文を共同執筆しました。

フェロマンガンクラストが刻む時間
深海の歯の表面を覆う黒い層は「フェロマンガンクラスト」と呼ばれる鉄マンガン酸化物です。海水中のイオンが超低速で沈着し、海底の物体を覆っていきます。
「これらの鉱物堆積物は平均して100万年あたり2.5ミリメートルの速度で形成されます」
この厚さを測ることで、歯が海底に沈んでからの経過時間を推定できます。

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個人的に一番グッときたのは、クラストの成長速度です。100万年で2.5ミリ ― 人間の一生分では0.0002ミリの計算になります。その膜が絶滅後もずっと歯を包んでいたと思うと、時間のスケールにめまいがしました。


