宇宙から津波の指紋を読む — SWOT衛星がカムチャツカ沖M8.8地震で明かした海溝付近の断層すべり

衛星が津波の「指紋」を宇宙から読み取る — 海溝付近の地震すべり分布を初解明
2025年7月29日、ロシアのカムチャツカ半島沖でマグニチュード8.8の巨大地震が発生し、沿岸の町セベロ・クリリスクでは17メートルを超える津波が押し寄せました。この津波を、地震発生からわずか70分後に宇宙から捉えた衛星があります。米仏共同の海面水位観測衛星SWOT(Surface Water and Ocean Topography)です。
サンディエゴ州立大学とスクリップス海洋研究所の国際研究チームは、SWOTが捉えた波のパターンから、地震の断層すべりを海溝からわずか10km以内の精度で特定することに成功しました。この発見は科学誌Scienceに掲載されています。
従来の津波監視の「盲点」
現在の津波監視は、沿岸の潮位計と海底に設置されたDART(深海津波評価・報告)センサーのネットワークに依存しています。しかし、これらの観測点は間隔が広く、短波長の波を見逃しがちです。従来の衛星高度計(アルチメーター)も衛星直下の狭い一本線上しか測定できず、波の広がりを捉えることが困難でした。
最も重要なのは「海溝付近」の観測です。沈み込み帯の海溝はプレートが出会う地点であり、地球表面に最も近い断層部分です。ここでの地震すべりは津波の発生に決定的な影響を与えますが、観測が最も難しい場所でもありました。
SWOT衛星がもたらした革命的な観測
2022年に打ち上げられたSWOT衛星は、幅120km(75マイル)にわたる帯状の海面高度をセンチメートル精度で測定できる新型高度計を搭載しています。カムチャツカ地震の約70分後、SWOTは先行波だけでなく、「分散波」と呼ばれる後続の短波長波列まで捉えました。
SWOTは津波の衛星観測を一次元の線とポイントから、地形図のような面的なスナップショットへと変革しました。海面の凹凸のパターンを見ることで、海溝で何が起きたかを推定できます。これは他のどの観測システムでも実現できなかったことです。
— Alice Gabriel(スクリップス海洋研究所 地震学者)
分散波 — 地震すべりの「指紋」
断層の深い部分でのすべりは長波長の波を生みます。一方、海溝付近(地表に近い部分)でのすべりは短波長の波を生み、これらは速度が遅いため先行波から遅れて「分散波列」を形成します。SWOTが捉えたこの分散波のパターンが、海溝付近のすべりの「指紋」として機能することが明らかになりました。
世界各地で確認される分散波
SWOTは過去にもロイヤリティ諸島(2023年5月19日)やドレーク海峡(2025年5月2日、M7.4)で分散津波波を観測しています。これらの検出は、分散波がこれまで考えられていたよりも一般的である可能性を示唆しています。過去の記録に分散波が少なかったのは、波が稀だったのではなく、観測手段が限られていたためだったのかもしれません。
海洋探査技術については「MiniROVがサーリッジの深海サンゴ調査で示した実力」もご覧ください。
編集部の解説
「点」から「面」へ — 津波科学の観測革命
従来の津波観測は「点」(DARTセンサー)と「線」(衛星アルチメーター)に限られていました。SWOTは幅120kmの「面」で海面を捉えることで、波の空間パターンを初めて宇宙から読み取ることを可能にしました。これは気象衛星が天気予報を変革したのと同様の、津波科学における観測革命です。
分散波という「見落とされてきた情報源」
先行する大きな津波波に隠れて、後続の短波長波は長年見過ごされてきました。しかしSWOTの観測により、この分散波こそが震源の断層すべりを最も詳しく教えてくれる情報源であることが判明しました。今後の津波ハザード評価に不可欠な要素となるでしょう。
防災への貢献 — より正確な津波モデルへ
海溝付近のすべり分布を特定できるようになったことで、津波のモデリング精度は飛躍的に向上する可能性があります。日本をはじめとする環太平洋地域の沿岸防災計画にとって、この研究成果は極めて重要な意味を持ちます。
深海ログ編集部
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