氷の下の海水温をどう測る? 音が2,500km先まで届けた北極海の答え

氷に覆われた海の課題
北極海の水温を知りたい。しかし海面は厚い氷で覆われています。衛星は役に立ちません。水中の温度は宇宙からは見えないのです。砕氷船を出す方法もありますが、広い海域を通年で追うのは現実的ではありませんでした。
音速と水温の関係
スクリプス海洋研究所のMatthew Dzieciuch氏らが目をつけたのは音です。水温が高いほど音は速く伝わる。この性質を使えば、音の到達時間から海水温を逆算できます。
原理自体は何十年も前から知られていました。ただ北極海では氷が音を散乱させてしまう。長距離の伝播は無理だと考えられていたのです。
CAATEX — 2,600kmに音を飛ばす
研究チームは2019〜2020年にCAATEXを立ち上げました。距離にして2,600km。アラスカ北方からスヴァールバル諸島北方まで6基の係留系を設置しています。発信間隔は3日おき。
結果は研究チームの予想を超えていました。信号は2,500km以上を伝播した。季節ごとの水温変化もはっきり読み取れています。
研究者の声
過去40年で海氷は劇的に薄くなり、表面の凹凸も減りました。散乱損失が十分に小さくなって音響伝播が可能になったか、確かめたかったのです。
— Matthew Dzieciuch(スクリプス海洋研究所 物理海洋学者)
薄くなった氷が開いた道
気候変動で北極の氷が薄くなったことが、皮肉にもこの手法を実用化させました。かつて氷が厚く荒かった時代には音が届かなかった。
ちなみにこの実験にはウッズホール海洋研究所やノルウェーのナンセンセンターも参加しています。北極海の観測は一国では完結しません。
スクリプス海洋研究所の観測技術については「SWOT衛星がカムチャツカ津波の観測に成功」もご覧ください。
筆者ひとこと: 「氷が薄くなったから音が通るようになった」という事実が頭に残っています。温暖化の結果が新しい観測手段を生むというのは皮肉ですが、研究者たちはその皮肉を成果に変えてしまった。
アラスカからスヴァールバルまでは東京からバンコクより遠い距離です。海中の音がそこまで届くという感覚が、正直まだつかめていません。

