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海にCO₂を吸わせる前に — 海洋炭素除去の環境モニタリングが直面する6つの壁

深海ログ編集部
出典: GEOMAR Helmholtz Centre for Ocean Research Kiel — The Challenges of Environmental Monitoring in Field Trials for Marine Carbon Dioxide Removal原文を読む →
CDRmare Workshop Report cover — Environmental monitoring of marine CO2 removal

海はCO₂を吸収できるか — 期待と課題が交錯する海洋CDRの最前線

2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするためには、削減しきれない残余排出量を相殺するため、大気中のCO₂を積極的に除去する技術が必要です。海洋は地球最大の炭素吸収源であり、その能力を人為的に強化できないかという「海洋CO₂除去(mCDR)」の研究が世界各地で進められています。しかし、その環境影響をどう測定し、監視し、評価するかという課題は、想像以上に困難であることが明らかになりつつあります。

6カ国41名の専門家が集結 — CDRmareワークショップ

ドイツの海洋研究ミッション「CDRmare」は、2025年9月にGEOMARヘルムホルツ海洋研究センター(キール)で国際ワークショップを開催しました。ドイツ、カナダ、アメリカ、オーストラリア、スウェーデン、イギリスの6カ国から16機関41名の専門家が参加し、海洋CO₂除去のフィールド試験における環境モニタリングの最低要件、知識のギャップ、解決策について議論しました。

明らかになった6つの課題

  • 責任あるフィールド試験のための環境モニタリングシステムに、統一的なガイドラインが存在しない
  • 自然の生態系変動や他の人為的影響により、実験による変化と背景変動を区別することが困難
  • 長期的な環境ベースラインデータが多くの場合利用できないが、変化を特定するために不可欠
  • コンピューターモデルの環境影響予測能力と臨界閾値の定義に限界がある
  • 測定すべき環境パラメータは場所と除去方法によって異なり、当局・事業者・利害関係者間の協働的な意思決定が必要
  • フィールド試験の統一的な規制が存在せず、地域・国・国際レベルの多様な枠組みの下で実施されている
私たちの報告書は、海洋CO₂除去プロセスの監視において直面する巨大な課題を明らかにしています。科学者は信頼性の高いモニタリングシステムを開発し、フィールド実験を環境に配慮した方法で実施・規制するための方法を見出さなければなりません。

— Prof. Alexander Proelß(CDRmare 共同議長)

ドイツには二重の責任があります。国内の環境保護要件を満たす解決策を確立すると同時に、成功したベストプラクティスの事例を通じて、海洋CO₂除去の環境モニタリングの最低基準を定義する国際基準を設定することです。

— Prof. Andreas Oschlies(CDRmare 共同議長)

海洋の炭素循環については「温暖化する深海の意外な適応者」もご覧ください。

編集部の解説

「やってみなければわからない」が許されない領域

実験室やメソコスム(中規模実験装置)での研究だけでは、海洋CO₂除去の効果と影響を確実に予測することはできません。しかし実際のフィールド試験には、測定すべきパラメータの選定すら統一されていないという根本的な課題があります。海洋という巨大で複雑なシステムに介入する以上、その影響を正確に追跡する手段の確立が先行しなければなりません。

ベースラインデータの欠如 — 「変化を測る基準」がない

環境変化を検出するためには、「介入前の状態」を知る必要があります。しかし多くの海域では長期的なベースラインデータが存在しません。これは海洋CDRに限らず、深海底鉱物資源開発や洋上風力発電など、あらゆる海洋開発に共通する課題です。

ドイツが目指す「国際モデル」としての役割

CDRmareプロジェクトは2021年に開始され、2027年7月まで継続予定です。ドイツは国内でのベストプラクティスを確立し、それを国際基準として提案することで、海洋CDRの責任ある実施をリードしようとしています。日本もメタンハイドレート開発等で同様の課題に直面しており、この動向は注視に値します。

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