40年前のサケ缶を開けたら海の回復が見えた — 寄生虫が語る生態系の健康

サケ缶の中の小さな手がかり
スーパーで売られているサケの缶詰に寄生虫がいると聞いたらどう思いますか?
気持ち悪いと感じるかもしれません。しかしワシントン大学の研究チームはこの虫にまったく違う意味を見出した。逆転の発想です。海の生態系が回復しているサインだといいます。
42年分の缶詰を開ける
研究チームはアラスカ産のサケ缶178個を調べました。製造年は1979年から2021年。缶を開けてフィレをピンセットと顕微鏡で解剖しています。数えたのはアニサキス類(anisakid)と呼ばれる約1cmの寄生虫です。
結果はこうでした。カラフトマスとシロザケでは42年間でアニサキス類が増加していた。
一方、ギンザケとベニザケでは変化なし。
なぜ寄生虫が増えると「良いニュース」なのか
アニサキス類のライフサイクルは複雑です。まずオキアミに寄生する。それを食べた魚に移り、最終的にアザラシやアシカ、シャチの体内で繁殖します。
つまり寄生虫が増えたなら海洋哺乳類も増えているということです。1972年制定の海洋哺乳類保護法の効果が、寄生虫の数に表れている可能性がある。
研究者の声
サケに寄生虫がいると聞くと、何かがおかしいと思う人がほとんどです。でも私は、お皿の上の魚が健全な生態系から来た証拠だと捉えています。
— Chelsea Wood(ワシントン大学 准教授)
寄生虫の数が増えているということは、適切な宿主をすべて見つけて繁殖できたということです。生態系が安定しているか、回復しつつある兆候かもしれません。
— Natalie Mastick(イェール大学ピーボディ博物館 博士研究員)
何が生態データの情報源になりうるか、もっと発想を広げる必要があります。
— Natalie Mastick
缶詰が開く過去への窓
この研究のもうひとつの意義は方法論にあります。アーカイブされた缶詰が海洋生態系の歴史を読み解く手がかりになる。42年分の変化を追跡できるデータは簡単には手に入りません。缶詰という思いもよらないソースが過去への窓を開いてくれました。
海洋環境の変化については「海洋温暖化で古細菌の窒素循環が変わる」もご覧ください。
筆者ひとこと: 「サケの缶詰で生態系の健康を測る」という発想に驚きました。寄生虫が増えているほど海が元気になっている。直感とは逆で面白いです。
42年分の缶をひとつずつ開けてピンセットで虫を数える。地味ですが、この粘り強さがなければ見えなかったデータだと思います。
缶詰がタイムカプセルになるという視点も新鮮でした。


